フランスにおけるフィクション部門で、かならず上位に入る作家、マルク・レヴィ。
彼の処女作『夢でなければ(Et si c’etait vrai・・・)』を読んでみました。
原書も持っているのですが…、途中まで読んで、話を早く知りたくなって日本語を読んでしまいました。
舞台はサンフランシスコ。
研修医だったローランは、事故で昏睡状態に。
見ること、聞くことはできるのに、体が動かないジレンマから、彼女は体を離れて魂だけ移動する術を身につけます。
事故から半年後、元の自分のアパートに戻ってみると、母親がそこを貸し出してしまっていて、建築家のアーサーが新しい家主として住んでいました。
ローランは、それまで誰も幽体離脱した自分の姿を見ることができなかったので、懐かしい自分の部屋で好き勝手にしていたら、ある日、アーサーに見つかってしまいます。
なんとアーサーは、姿が見えるだけでなく、彼女と話すこともでき、触れることもできる。
彼女を感知できるのは、なぜかアーサーだけ。
やがて二人は恋に落ちて・・・。
ストーリーは、珍しいものではありません。
ラストも、なんかどこかで読んだか聞いたかしたようなものだったし、ローランを見ることもできないのに、アーサーに手を貸す友人、ポールとか、やけに理解のある刑事さんとか、少女マンガに出てきそうなキャラクター。
でも、だからこそロマンチックなのです!
訳者さんの力量かもしれませんがとても読みやすく、言葉もきれい。
登場人物たちの過去の思い出の描写や、人生とか時間とか言ったものを語る時のセリフが、押しつけがましくなく、情緒豊かに、優しく綴られているのが印象的でした。
フランス文学は、きれいだけれど分かりにくいものが多いです。
プルーストとかね。
分かりにくいところこそが、フランス文学の醍醐味でもありますが、やはりラストが曖昧だったり、心理描写に不透明さが目立つものは、もやもやしてしまう。
その点、美しくて分かりやすいこのラブストーリーは、読後に満足感がありました。
もともと、レヴィが息子さんに語り聞かせるために考えた物語だそうで、だからとても優しいストーリーなのですね。
ロマンチックが欲しいときに最適です。
出版前からハリウッドでの映画化が決まっていたという本作。
スピルバーグが飛びついたんだとか。
正直、そこまでのストーリーかどうかは疑問ではありますが。
日本では公開されなかったようですが、『恋人はゴースト』という邦題でDVDになっているようです。
★『夢でなければ』
マルク・レヴィ著、藤本優子訳
早川書房
Marc Levy, Et si c’etait vrai・・・, 2000
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