文学レビュー『鏡の迷宮 パリ警視庁怪事件捜査室』(エリック・フアシエ)

鏡の迷宮

19世紀前半のパリが舞台のミステリー!

ハヤカワ・ポケットミステリのシリーズから、昨年出版されたばかりの極上のフレンチ・歴史ミステリーをご紹介します。

時は1830年、国王シャルル10世が退位させられ、新しくオルレアン家のルイ・フィリップが王座に就いた七月革命の年。
フランス全土が七月革命の混乱の中、若き美青年警部、ヴァランタン・ヴェルヌは、若者を食い物にする悪い奴らを締め上げるなど、とある目的のために警視庁風紀局でその腕を発揮していました。

ところが、突然、治安局のフランシャール警視に呼び出され、ある事件を追うように命令を出されます。
それは、代議士の子息が自宅で開かれた夜会の最中に身投げ自殺をしたというもの。
目撃証言からも、検死結果からも、自殺であることは明白なのに、父親である代議士は納得せず、もっと詳しい捜査を警視庁に依頼してきていたのです。

警視庁は、代議士の依頼をむげに断れず、再調査にあたって白羽の矢が当たったのがヴァランタン。
なぜ、治安局に異動しなければならないのかも分からずに、彼はとりあえず調査に当たります。

すると、この自殺には不審な点がどんどん出てきて…。
実は、この事件には政治がらみの陰謀と、最先端の科学知識が関わってくるものだったのです。

ヴァランタンは科学に詳しく、有名な博士の元で学んだ経験もあり、また腕に覚えもあることから、次々と襲い掛かる危機をなんとか乗り越えつつ、真相に迫っていくのです。

この事件の意外な黒幕とは?

そして、この事件とは別に、彼は人生を賭けて追っている人物がいました。
その通り名はル・ヴィケール(助任司祭)。
どうも、ヴァランタンの過去や、彼の亡き父親と関係があるようです。

物語の章の合間に、「ダミアンの日記」という、ある少年の手記が挟み込まれます。
この内容は、ダミアンという少年が受けた目を覆いたくなるような体験が綴られており、ヴァランタンが追うル・ヴィケールと何らかの関係があるようなのです。

ヴァランタンの個人的な目的と、今回の事件が複雑に混ざり合い、だんだんと物語は驚くべき事実へと突き進んでいくのです。

パリの街が今のように整備されたのは、ルイ・ナポレオン時代にオスマンが改革してから。
この小説よりも後になります。
改革前の混沌としたパリの情景と同時代の司法や犯罪をリアルに描き出しつつ、実在の人物も登場させながら、謎めいた主人公に謎解きとアクション、そして恋まで経験させる。
とても贅沢で、ユニークな作品となっています。

何より、一見、美貌と財産に恵まれ、勇敢で物怖じしないように見えるヴァランタンが、思い悩むとこころは応援したくなるし、危機に陥りつつも悪に立ち向かっていくところは実にカッコいい。

フランスでは続編も発行されているようです。
翻訳が待ち遠しいミステリーです。

★『鏡の迷宮 パリ警視庁怪事件捜査室』
 エリック・フアシエ 著 / 加藤かおり 訳
 原題:Le Bureau des Affaires Occultes
 早川書房 ハヤカワ・ミステリ 1984
 発売日 ‏ : ‎ 2022/10/4
 ISBN:9784150019846 

書籍レビュー文学
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