
インド、イタリア、カナダ。
国も立場も全く違う3人の女性のストーリーが交互に語られ、ラストでそれこそ三つ編みのように絡み合う。
共通するのは、3人とも強固な意志を持ち、自分らしく生きようとしていること…。
フランスでベストセラーとなり、30以上の言語に訳されている小説『三つ編み』(La Tresse)。
著者はボルドー生まれで、映画監督でもあるレティシア・コロンバニ(Laetitia Colombani)です。
女性が差別や抑圧、困難に立ち向かう話ですが、単なるフェミニズム文学ではありません。
彼女たちを追い詰めるのは必ずしも男性とは限らず、また、味方になってくれる男性もいます。
敵は、どちらかというと社会のような気がします。
でも、この強さは絶対に女性だからこそ!
著者はフランス人ですが、主人公たちは別の国の女性です。
巻末の解説によると、男女格差が少なくなってきているフランスよりも、ジェンダーギャップの大きい国が選ばれているようです。
3人の物語を少しご紹介しましょう。
まずはインドの最下層カースト「不可触民」として生まれたスミタ。
人間としての尊厳が生まれつき奪われている中で、6歳の娘、ラリータにだけは教育を受けさせたいと、学校に通わせることにする。
娘が読み書きできるようになる。
それだけがスミタの希望だった。
しかし、学校で娘が受けた仕打ちを知り、スミタは娘を連れて命がけで村を抜け出す。
イタリアのシチリア島で父親の経営する毛髪加工会社を手伝う20歳のジュリア。
保守的な街で、インド人の恋人とも大っぴらには会えないけれど、普通の恋する少女だった。
しかし、父親が事故で昏睡状態に陥った瞬間から、会社の経営と家族の行く末が彼女の肩に重くのしかかる。
そして、カナダのモントリオールで敏腕弁護士として働くサラ。
3人の子供のシングルマザーだが、男社会の会社ではプライベートを全く覗かせず、家庭と会社との両立に体が悲鳴を上げているのにも耳をふさいで、エリート街道をがむしゃらに歩んでいた。
ある日、ついに倒れてしまい、さらにショックなことに、乳がんが見つかる。
病気を隠して働き続けるサラだったが、限界はそこまで来ており…。
3人ともに色々なことが起こり、いいところで別の女性の物語にスイッチするので、先が気になってどんどん読み進めてしまいます。
文体もすっきりしていて分かりやすいです。
そして、希望が持てるラストに読後感も申し分ありません。
また、3人の女性に加えて、もう一人、ある女性が絡んでいたことがエピローグで明かされます。
この、バラバラのエピソードがラストで集結する手腕も見事!
それにしても。
インドのスミタや彼女と出会う女性達の置かれている状況は人権以前の問題で、本当に過酷なのですが、日本のジェンダーギャップ指数はインドよりもひどいんだそう。
巻末の解説でもあるように、もし舞台の一つが日本だったら?
どうしても考えてしまいますね。
ひとつ、私が印象的だった箇所を引用しておきます。
カナダのサラのエピソード。
病気が見つかってから、会社は手のひらを返したように、彼女を追いやろうとする。
その状況に対してサラは思う。
「病気が相手なら、どう戦えばいいのかわかっている。
武器がある、治療法がある、医師たちがついている。だが、排斥に対してどんな特効薬があるだろう?」
それでもサラは、最後には自分らしさを見つけ、一歩踏み出すと同時に微笑むのです。
★『三つ編み』
レティシア・コロンバニ 著 / 齋藤可津子 訳
原題:La Tresse
出版社:早川書房
発売日 : 2019/4/18
ISBN:978-4152098559
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