文学レビュー『悲しみのイレーヌ』(ピエール・ルメートル)

作品が映画化されるなど、フランスミステリー・サスペンス界をリードする、ピエール・ルメートルの小説です。

こちらは、カミーユ・ヴェルーヴェン警部が活躍するシリーズの1作目。
日本では、2作目の『その女アレックス』の方が先に発行され、大ヒットしました。
いや、日本以外でも、『その女アレックス』の見事なプロットが絶賛されて、イギリス推理作家協会賞を受賞し、ハリウッドで映画化の話も出ています。

2作目の方を先に読んでしまうと、1作目のネタバレが入っているので、こちらの『イレーヌ』から読んだ方が良さそうです。

さて、『悲しみのイレーヌ』は、とある凶悪殺人事件の通報から始まります。

若い女性二人が惨殺されていたのですが、それがもう、描写を読むのも辛いほどのひどい殺され方で。
その後、その殺人事件の犯人が、他の事件にも関わっていることが判明。
つまり、連続殺人事件でした。
手口はすべて残虐そのもの。

ヴェル―ヴェン警部とその部下からなる「ヴェル―ヴェン班」は様々な角度からこの事件を追いますが、全く犯人の手掛かりがつかめません。

しかし、警部はある閃きから、殺人手口にルールがあることに気づきます。
そこから、おそらくサイコパスであろう犯人へのコンタクトを試みますが…。

事件解明の流れと並行して、ヴェル―ヴェン警部の私生活も描かれます。

彼には心から愛する妻がいて、妊娠中。
もうすぐ、息子が生まれる予定です。
仕事とプライベートの両立に悩みつつも、警部は幸せの只中にいるようです。

妻の名は、イレーヌ。
そう、この作品のタイトルに入っている名前です。

犯人によって犠牲になった人物はたくさん出てきますが、イレーヌという名前は他に出てきません。
でも、『悲しみのイレーヌ』というタイトルがついている以上、きっと事件に関わってくるはず。
読者としては、そんな不安を常に抱えつつ、読み進めないといけないわけです。

そして、いよいよクライマックスに近づきそうになった時…。
これまで読んできたものの様相が、ガラッと変わるのです。
その女アレックス』ほどの驚きはないものの、このように読者の認識を覆す手腕は、ルメートルの得意技なのでしょうか。

日本版文庫のあとがきで、解説者が「脳がざわざわするミステリー」と書かれていますが、言いえて妙ですね。
また、『その女アレックス』を既読の人も、もう一度読みたくなるとも。
まさにその通りです。

本作の方が、警部や周りの警察関係者のことが詳しく書いてあるのですが、2作目ではアレックスの動向を追うことをメインに読んでしまったので、この人間味のある警部らがどういう動きをしていたのか、確かめたくなってしまうのです。

カミーユ・ヴェル―ヴェン警部のシリーズは、『悲しみのイレーヌ』、『その女アレックス』、『傷だらけのカミーユ』、そして番外編の『わが母なるロージー』と4作が出ています。
どれも目が離せない展開。
そして濃厚な人物描写が期待できます。

この機会にルメートルの術中にどっぷりハマるのはいかがでしょう。

★『悲しみのイレーヌ
ピエール・ルメートル作/橘明美訳
文春文庫

書籍レビュー文学
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