文学レビュー『その女アレックス』(ピエール・ルメートル)

ピエール・ルメートルのヴェル―ヴェン警部シリーズ第2作目にして、大ヒットしたミステリーです。

日本では、1作目の『悲しみのイレーヌ』より先にこちらが翻訳出版されました。
そのため、ネタバレになってしまっていたり、警察側の人間関係がよく分からなかったりしたかもしれません。
できれば、先に1作目を読んでから、本作を開いたほうが良さそうです。

私も、本作を最初に読んだ時は、ヴェルーヴェン警部こと、カミーユの事情が分からなかったこともあり、アレックスの動向ばかりを追ってしまいました。
今回、「イレーヌ」を読んでから、こちらを再読しました。
すると、警察側のストーリーも大変人間味があって面白く、ラストではとある部下との心温まるエピソードも盛り込まれていました。

さて、『その女アレックス』は、若い女性、アレックスが突然誘拐されるところから始まります。
誰とも分からない男にひどい目にあわされ、監禁されてしまいます。

その頃、警察は市民から、女性が誘拐されているところを見た! という通報を受けます。
部長のル・グレンは、この事件の担当にカミーユ・ヴェルーヴェン警部を指名。
警部は過去のトラウマから、誘拐事件は担当したくないと言いますが、一度引き受けてしまうと他の警部に渡すことはせず、昔の部下とともに誘拐された女性を追います。

しかし、誘拐された女性も、誘拐犯も、全く捜査上に上がってきません。
顔どころか、どこの誰なのかも分からないのです。
「ヴェルーヴェン班」は少ない手がかりから、地道な捜査を行い、少しずつアレックスを追っていきます。

以降、アレックスの置かれた状況と、警察側の動きが交互に書かれます。
そして、ヴェルーヴェン警部達の働きにより、この誘拐事件が、全く別の側面を持つことが徐々に分かっていくのです。

果たして、アレックスとは何者なのでしょうか?

本書は3部構成になっており、第1部では、アレックスが何とか監禁場所から逃げ出すまでが書かれ、第2部では、彼女がとある目的を遂げ、第3部では「ヴェルーヴェン班」がすべての謎を解いて、一連の事件に決着をつけます。

読み始めると一気に引き込まれて、謎の女性、アレックスが次はどんな顔を見せるのか、警察はどう事件を解決するのか、気になって本が閉じられなくなるほどです。

また、アレックスの事件とは別に、ヴェルーヴェン警部が仲間の協力を得つつ、過去を乗り越えていく人間的なドラマもさりげなく書かれています。
最初に読んだ時は、ここの部分があまり印象に残らなかったのですが、とてももったいないことをしました。

二転三転するストーリーに、驚くべき着地点。
数々のミステリー賞に輝いたのも頷ける作品でした。

★『その女アレックス
 ピエール・ルメートル 著/橘明美 訳
 原題:Alex
 文春文庫

書籍レビュー文学
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