今回は、少し衝撃的な内容の作品をご紹介。
『茶色の朝』は、フランク・パヴロフが1998年に書き、その後ベストセラーになった”Matin Brun”を翻訳し、日本オリジナルに装丁した一冊です。
まずはストーリーから。
主人公の「俺」は、友人のシャルリーと、ビストロでコーヒーを飲みながら、何気ない日常を過ごしています。
実は、この国は「茶色党」が社会を支配しており、茶色以外の猫を飼うことを禁じていました。
「俺」は白と黒のブチの猫を飼っていましたが、社会の求めに応じて、猫を処分していました。
続いて、犬も茶色以外は認められなくなり、シャルリーは黒の愛犬を安楽死させたとのこと。
茶色の動物が優れていることは科学的なエビデンスがあるとかで、二人は何か違和感を感じながらも「それなら仕方がない」と、社会のルールに従ったのです。
その次は、茶色党に立てつく新聞が廃刊になり、人々は『茶色新報』しか読めなくなります。
図書館からも多くの書籍が撤去され、社会は次々と「茶色」に染まっていきます。
それでも「俺」は日常を続けていきます。
あまつさえ、ブチの猫の代わりに茶色の猫を新たに飼い、「茶色に守られた安心、それも悪くない」と驚くほどの順応を見せます。
しかし、黒の代わりに茶色の犬を飼ったはずのシャルリーが逮捕されてしまいます。
なんと、過去に茶色以外の犬を飼ったことも犯罪になるんだそうです。
茶色の猫を飼ったから安心、と思っていた「俺」。
この時ようやく、「抵抗すべきだったんだ」と気づきます。
でも、どうやって?
やがて、誰かが「俺」の家のドアをたたく音が聞こえてきます…。
とても短いおとぎ話です。
でも、その内容は、言うまでもなく、今の世の中を反映しています。
この本がフランスでベストセラーになったのは、極右政党があわや政権を取りかけた2002年のこと。
フランスの人々は、ギリギリで自分たちの置かれた状況に気づき、『茶色の朝』を読み、「ノン!」を叫ぶようになったそうなのです。
社会や世間に同調し、考えることをやめてしまった人々の増加。
それは、現代日本にも当てはまるもの。
日本語版の『茶色の朝』には、東京大学教授で哲学者の高橋哲哉氏のメッセージが載せられています。
これを読むと、「茶色」がフランス人にとって、どのような意味を持つのかが分かりますし、日本人への警告も読み取れます。
また、日本語版のためにヴィンセント・ギャロが描いた挿絵が、美しいながらも不気味さを誘います。
あっという間に読めてしまう薄い小説。
でも、その中身はとても深いものとなっています。
一度ぜひ、手に取っていただきたい一冊です。
★『茶色の朝』
フランク・パヴロフ 著/藤本一勇 訳/ヴィンセント ・ギャロ 絵/高橋哲也 メッセージ
原題:Matin Brun
大月書店
ISBN:9784272600472
コメント