文学レビュー『わが母なるロージー』(ピエール・ルメートル)

ピエール・ルメートル著のヴェル―ヴェン警部シリーズ番外編です。

この『わが母なるロージー』は中編小説で、ヴェル―ヴェン警部が関わった、爆弾事件を描いています。

時系列では、第2作目の『その女アレックス』と3作目の『傷だらけのカミーユ』の間に置かれているので、先にご紹介することにしました。

ヴェル―ヴェン警部の母親は、亡くなっているにもかかわらず、これまでもちょくちょく登場し、存在感がありましたが、この作品タイトルの「ロージー」は、彼の母親のことではありません。

爆弾テロを起こしたジャンという青年の母親のことです。

原題は『Rosy et John(ロージーとジョン)』、となっていて、思いっきりこの二人、母親と息子の話となっています。

ちなみに、息子の本名はジョンなのですが、本人がジャンと呼ばれることを望んでいるので、作品中ではジャンとなっています。
ややこしい。

物語は、ジョゼフ=メルラン通りで爆発が起こった場面から始まります。
その場にいた何人かの人々の様子が描かれ、ひどい爆発であったことは分かりますが、なんと、死者は出ませんでした。

一方、我らがヴェル―ヴェン警部は、母親が残したアトリエに籠って絵を描くという、充実した休暇を終え、車でパリに向かっているところ。
ラジオで爆発事件のことを知りました。

でも、自分が捜査する地域でも、住んでいる地域でもないので、帰宅後、恋人のアンヌに電話をし、彼女の元に向かおうとします。
ところが、部下であるルイからの電話で、恋人との逢瀬が怪しくなってきます。
爆弾犯が自首してきたうえ、ヴェル―ヴェン警部としか会わない、と言っているとか。

ヴェル―ヴェン警部は、こうして事件に巻き込まれていくのでした。

爆弾犯のジャンは、第一次世界大戦の時の不発弾を拾い、それに時限爆弾を付けて爆弾を作ったと言います。
そして、まだ7つの爆弾をどこかに設置していて、1日にひとつずつ爆発する仕掛けをしていると。
爆弾の場所を知りたければ、留置所にいる母親と自分を釈放し、さらに逃走資金、そしてオーストラリアに逃げられるように手配しろと要求してきます。

もちろん、そんな条件は飲めない警察側。
でも、一度爆発が起こっているため、このままでは誰かが犠牲になる。

どんなに乱暴な方法で彼に口を割らせようとしても、どうしても交換条件を変えないジャン。
しかも、やっと彼が話したのは、翌朝の9時にどこかの幼稚園で爆発が起こるとのこと。
幼い命がたくさん奪われるかもしれないのです。

時間がない中、ジャンと警察側のにらみ合いは続きます。

ジャンの身辺を洗ううちに、ヴェル―ヴェン警部は何か違和感を感じ始めます。
彼が釈放しろと言っている母親のロージーは、ジャンの恋人を車でひき殺した可能性があり、なぜそんな母親を逃がそうとするのか。
そして、息子のことを語るロージーの口調も何かがおかしい。

また、二人を引き合わせてみたところ、二人は意外なリアクションを見せ…。

一体、ジャンの目的は何なのか?
ロージーはジャンにとって、どんな存在なのか?

可哀そうに、恋人と会えなくなり、長時間働き詰めのヴェリーヴェン警部は、ある決意をします。

そして、驚きの結末を迎えるのです。

結末の直前で警部がつぶやく「おれたちはなにかを見落としている」というセリフが印象的でした。

犯人が最初から分かっているのに謎だらけで、事件がどう動くのかも見えず、ルメートルの作品にはいつもドキドキさせられます。

ジャンを中心としたプロットも見事ながら、たくさんの脇役たちの心情にもスポットが充てられていて、どこかコミカルな雰囲気もあるので、読みやすい作品でした。

ヴェル―ヴェン警部3部作を読んで、彼のキャラに好意を持った読者も多いはず。
そんな人には嬉しい番外編でした。

★『わが母なるロージー
 ピエール・ルメートル 著/橘明美 訳
 原題:Rosy et John
 文春文庫

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