文学レビュー『傷だらけのカミーユ』(ピエール・ルメートル)

ピエール・ルメートルの大人気小説、ヴェル―ヴェン警部シリーズの第3弾。
そして、完結編です。

パリ警視庁犯罪捜査部の警部、カミーユ・ヴェル―ヴェンは、背が低いことでちょっぴり有名人。
これまで、数々の難事件に挑んできました。

今回は、彼の恋人のアンヌが”偶然”宝石強盗事件に巻き込まれ、重傷を負うところから始まります。
身内は捜査に入れない決まりですが、カミーユは嘘をついて強引にこの事件を担当。
自分の愛する人が、またもや傷つけられ、さらに危険な状況にあるのだから、規則を破ってしまうのも仕方ないかもしれません。

少なくとも、この時点では。

上司や判事のいうことを聞かず、強引な捜査を決行するものの結果は芳しくなく、カミーユはだんだん警察内から孤立していきます。

一方、「おれ」という一人称で語られる犯人らしき人物の独白が、物語の合間に差し込まれます。
これはいったい誰で、何が目的なのか…。
読者が推測できるのは、とても危険な人物であろうということだけ。

そして、カミーユを応援し、犯人の言動に不安を覚えながらページをめくる読者を翻弄するかのように、物語はだんだんと別の顔を見せ始めます。
やがて判明する犯人の意外なこと!

1作目の『悲しみのイレーヌ』、2作目の『その女アレックス』と同様、見事なプロットです。
一読後、もう一度最初から読みたくなるのも同じで、このシリーズは本当に一筋縄ではいかない作品ですね。

ピエール・ルメートルは、シリーズ1作目の『悲しみのイレーヌ』で、2013年に英国推理作家協会が英語圏以外の優れた推理小説に贈るインターナショナル・ダガー賞を受賞していますが、この作品も2015年に同賞を受賞したそうです。

また、彼は『天国でまた会おう』で2016年度、3度目のインターナショナル・ダガー賞を受賞、さらに同作品でゴンクール賞も受賞していますし、世界が注目する作家です。
日本でも次々に翻訳されています。

どの作品から読もうか、と迷っている方、ぜひ、ヴェル―ヴェン警部シリーズをお試しください。
少々残忍な描写がありますが…。
いや、顔を覆いたくなるような記述も多いですが…。
それでも、読後は見事な謎解きの構成に感心してしまうとともに、ヴェル―ヴェン警部やその周囲のキャラとのドラマも相まって、不思議な余韻を感じられますよ。

★『傷だらけのカミーユ
 ピエール・ルメートル 著/橘明美 訳
 原題:Sacrifices
 文春文庫

書籍レビュー文学
スポンサーリンク
スポンサーリンク
Kazuéをフォローする
フランス情報収集局

コメント

タイトルとURLをコピーしました