文学レビュー『人喰い鬼のお愉しみ』(ダニエル・ペナック)

フランスのミステリーを一冊ご紹介します。

ダニエル・ペナック(Daniel Pennac)は、児童文学作家としてスタートしながら、1985年にこの『人喰い鬼のお愉しみ』“Au bonheur des ogres”を書き、その後推理作家としても活躍している作家です。

この本は、著者の最初のミステリーであり、その後「ベルヴィル4部作」として続くシリーズの第一弾でもあります。
発売当時、フランスでは大ブレークしたそうです。
ユーモア・ミステリーに分類されています。

日本語訳で読んでいますが、テンポがよく、一人称で読みやすい文体でありながら、理解するのに少し苦労するところもあります。
フランス人お得意の比喩や皮肉が多く使われているからです。
褒めているみたいなのに、それをそのままの意味に取っていいのかどうか悩む。
これって本当にフランス的ですよね。

しかも、登場人物の名前が最初に出てきて、その説明が後になるものだから、??って思うことも多いのですが、でも、読み進むうちに、キャラクターたちがものすごく個性的なことが分かって、これは普通のミステリーではない、と何度も思わされます。

ストーリーは、デパートの品質管理係として働くバンジャマン・マロセーヌが、職場での爆発事故に必ず立ち会ってしまうことがきっかけとなります。
家族を巻き込んで、ドタバタしつつ、だんだん事件の核心に迫っていくというもの。

この主人公、仕事がとっても特殊。品質管理係というのは建前で、実は、苦情処理のためのスケープゴート。
お客からクレームが入ると、マロセーヌが怒られ、罵られることで憐れみを誘い、お客に起訴を断念してもらうという、Mじゃないとできそうにもない役柄。
そして、マロセーヌには父親が全員違う弟妹が5人もいて、それぞれが個性豊かで、彼の状況をより複雑にしています。
母親は家出中だし、同僚で理解者のテオは同性愛者。
マロセーヌの恋人(?)で雑誌記者のジュリアとの出会いもかなり奇抜。
出てくるキャラクターはみんな一筋縄ではいかない。
なんでそうなるの!?と思うことが次々に起こります。

最初は、その比喩だか皮肉だかの表現とか、あまりにも際立ったキャラクターたちについていくのが大変でしたが、中盤、事件の謎が形になってきたところでがぜん面白くなりました。
爆破事故はもちろん単なる事故ではなく、誰かの手で任意に起こされたもの。
そこには、深く、重い動機が隠されていたのです。
マロセーヌが巻き込まれたのも、もちろん偶然ではなかった。

かなりブラックなところもありますし、犯人の動機も、普通では考えられないこと。
こんなんあり!?と思いつつ、引き込まれていくミステリーです。

読むのに苦労したキャラクター達ですが、続きがあると思うと、やっぱり読みたくなってしまうのも不思議なところです。

パリのベルヴィルを舞台にしているので、シリーズは「ベルヴィル4部作」と呼ばれています。
あのマロセーヌや周りの人々が活躍する2作目以降もぜひ読んでみたいと思います。

★「ベルヴィル4部作」(邦訳されたもの)
『人喰い鬼のお愉しみ』(中条省平 訳, 1995)
『カービン銃の妖精』(平岡敦 訳, 1998)
『散文売りの少女』(平岡敦 訳, 2002)
『ムッシュ・マロセーヌ』(平岡敦 訳, 2008)

すべて白水社より刊行。

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