文学レビュー『ルーヴルに陽は昇る』(レオ・マレ)

ハヤカワのポケット・ミステリの中から、原書がフランス語と思われる古い作品を見つけました。

奥付を見ると、なんと昭和39年6月5日印刷、となっています。
戦後の古典ミステリ、しかもパリを舞台にしたハードボイルド・ミステリーです。

1954年のパリで、とある殺人事件が起こります。
主人公の探偵、ネストール・ビュルマは、倒れていた被害者の顔を見て驚きます。
さっきまで会っていたルールーという浮気男にそっくりだったからです。
ビュルマは、ルールーの奥方から、彼を早く家に帰すよう、依頼を受けていました。

しかし、ルールーの泊っているホテルへ行くと、彼はちゃんと生きていました。
そんなルールーに、ビュルマはなぜか車で体当たりし、けがを負わせて逃げてしまいます。

翌日、知り合いの警部、ファルーから、殺された男はラルパンという詐欺師で、ルーヴル美術館から盗まれたラファエルの絵の贋作を体に巻き付けていたと聞きます。
そして、アリバイがあるにもかかわらずラルパンの情婦、ジュヌヴィエーヴを疑った警部は、ビュルマに彼女に近づくように頼んでくるのです。

ビュルマは見事彼女と知り合い、しかも良い仲に。

ある日、ビュルマ何者かに気絶させられ、自宅と事務所をあら捜しされてしまいます。
やつらは何を探していたのか。
無くなったもので見当がつくものが見当たりません。

ラルパンを襲った犯人の仕業か?
だとしたら、なぜ?
盗まれたラファエルの絵はどう関係してくるのか?

まるで無関係と思われたエピソードが巧妙に絡み、癖のあるキャラ達に翻弄させられつつ、一連の事件が驚くべき真相へと終結していく様子は見事です。

事件の面白さもさることながら、1950年代のパリを主人公が横断することで、当時の様子が垣間見られるのも嬉しい、貴重な作品となっています。

作者のレオ・マレ(Léo Mallet)氏は、1909年にモンペリエで生まれ、1996年に亡くなっています。
日本語に翻訳された作品は少ないですが、フランスでは20世紀を通して活躍した推理作家のようですね。

時代のレトロ感と、古さを感じさせない謎解きが相まって、21世紀の私達にはかえって新鮮に感じられる気がします。

★『ルーヴルに陽は昇る』
 レオ・マレ 著/大久保和郎 訳
 原題:Le soleil nait derriere le Louvre
 ハヤカワ・ミステリ 844

書籍レビュー文学
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