文学レビュー『べにはこべ』(バロネス・オルツィ)

フランス革命下で、フランス貴族をギロチンから救った謎の英国人、通称「べにはこべ」の暗躍を描いた古典名作がこの『べにはこべ』です。

作者のバロネス・オルツィはハンガリー生まれの英国籍を持つ女性なので、英文学ではありますが、フランス革命を題材にしている小説なので、ご紹介することにしました。

初版は1905年1月で、海外では広く読まれている名作です。
子供向けに書き直された版や、舞台化や映画化も何度もされているそうです。

日本でも、複数の方が翻訳されたので、いくつもの版が出版されています。
今回、私は村岡花子さん訳の河出文庫版を読みました。
花岡さんは『赤毛のアン』シリーズの翻訳などで有名で、『べにはこべ』の初版は1954年のようです。

さて、作品の舞台は、フランスで革命政府が貴族を次々とギロチン送りにしていた1792年。
通称「べにはこべ」と呼ばれる人物とその仲間たちが、革命政府の厳しい目をかいくぐって、フランス貴族たちを英国へ亡命させていました。

見つかれば即処刑。
にもかかわらず、多くの有罪判決を受けたフランス人たちが、「べにはこべ」の機転により、パリから脱出し、ドーヴァー海峡を渡っていたのです。
誰も「べにはこべ」の正体を知らないものの、その暗躍は英国社交界でも話題の的となっていました。

フランスの元女優で、絶世の美女、マーガリートは、英国貴族のパーシイ・ブレークニイと結婚し、ブレークニイ夫人として英国のリッチモンドで暮らしていました。

ある日、彼女はフランス革命政府から派遣された全権大使、ショウヴランから、「べにはこべ」の正体を突き止めるよう脅されます。
というのも、彼女の愛する兄、アルマン・サンジュストが、フランス貴族の亡命に手を貸している証拠を握られてしまったのです。
ショウヴランは、兄のギロチン送りを回避する代わりに、自分に協力しろと迫ります。

兄想いのマーガリートは協力しないわけにはいかず、「べにはこべ」の仲間と思われるアンドリュウ卿が、「べにはこべ」から受け取ったメモを盗み見し、ショウヴランに伝えてしまいます。

彼女自身の好奇心も手伝って、「べにはこべ」の正体を掴もうとするマーガリート。
しかし、やがてその正体が、自分の大切な人物であることに気づいてしまいます。

自分のせいで彼を危険にさらしてしまった!

そう気づいたマーガリートは、「べにはこべ」に危険を知らそうと、彼を追って、危険がいっぱいのフランスに渡る決意をするのです。
そのために、まずできることは…。

そこからは、貴族のご婦人とは思えない行動力を発揮し、ワクワクするような冒険譚が繰り広げられます。

「べにはこべ」の正体とは?
そして、彼とマーガリート、兄のアルマン、「べにはこべ」が逃がそうとした貴族たちは、無事に危機を脱出できるのか!?

題名は「べにはこべ」ですが、主人公はマーガリートです。
美しく、行動力があり、感情豊かな彼女の活躍は、出版後100年以上たった今でも色あせておらず、また、女性が主人公なだけあって、単なるハードボイルドではなく、情感たっぷりの愛の物語としても完結しています。

もちろん、「べにはこべ」のあっと驚く行動や機転にも感心させられ、何重にも楽しめるお話となっています。

フランス革命の動乱の中で起こった脱出劇。
西洋史好きにもたまらない設定とストーリーだと思います。

★『べにはこべ
 バロネス・オルツィ 著/村岡花子 訳
 原題:The Scarlet Pimpernel
 河出文庫

書籍レビュー文学
スポンサーリンク
スポンサーリンク
Kazuéをフォローする
フランス情報収集局

コメント

タイトルとURLをコピーしました