エキセントリックなママ、ママの世界観を守るパパ、そして語り手の「ぼく」。
この三人家族はいつも幸せそう。
ニーナ・シモンの「ミスター・ボージャングル」のレコードをかけながら、パパとママはいつでもダンスに興じ、毎晩のように大勢の客をアパルトマンに招いてパーティをし、ヴァカンスにはスペインに買ったお城に行って、やっぱりお祭り騒ぎをして過ごす。
ペットはわけもなく大きな声で鳴く、アネハヅルの「マドマワゼル・ツケタシ」。
常連客は来るたびに「カイロスピカ! カイロスピカ!」と叫ぶ元老院議員の「クズ」。
毎晩パーティがあるものだから、「ぼく」は学校に毎日遅刻し、先生を怒らせる。
でも、ママは公教育の方に問題があるとして、「ぼく」を退学させてしまう。
少しの嘘が混じった、「ぼく」たちの生活はとても愉快で、読み手はページを繰る手が止まらなくなります。
でも同時に、どこか不安を感ざるをえません。
そう、常識から逸脱できない私たちは、彼らのこんな生活が続くわけがないと、感じてしまうのです。
やがてママは少しずつ精神に異常をきたすようになっていきます。
でも、パパはママの希望を叶えてあげようと、ちょっと度を越していると思われるママの計画「リバティ・ボージャングル作戦」を遂行することになり…。
語り手は息子の「ぼく」ですが、時折、パパの手帳の抜粋が挟まれます。
そこには、「ぼく」の語りからは分からなかった家族の生活や、二人の出会いの様子が書かれており、読み手はより深く、この家族に入り込んでいくことになります。
『ボージャングルを待ちながら』(En attendant Bojangles)は、2016年1月にフランスで発行され、50万部を超えるベストセラーとなりました。
当時、作者のオリヴィエ・ブルドーは35歳で、この作品がデビュー作となります。
日本では2017年9月に集英社クリエイティブより訳書が発行されました。
わが国でも、フランス文学好きの方々を中心に評判になり、さらに世界29カ国で翻訳され、舞台化、映画化、バンド・デシネ化が決まっているそうです。
映画は、監督を『タイピスト!』のレジス・ロワンサルが務め、ママ役をヴィルジニー・エフィラ、パパ役をロマン・デュリスが演じ、昨年公開されました。
物語は、とても愉快で悲しげ、鮮やかでセピア、ファンタスティックでリアリスティック。
不思議な感覚が味わえる作品です。
ただ言えるのは、愛の物語ということ。
数多の歌手がカバーしている「ミスター・ボージャングル」のメロディが聞こえてきそうな、キャラクターたちのダンスが目の前で映像化しそうな、ユニークな読書体験をぜひ。
★『ボージャングルを待ちながら』
オリヴィエ・ブルドー 著/金子ゆき子 訳
原題:En attendant Bojangles
集英社クリエイティブ
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