文学レビュー『異説ガルガンチュア物語』(谷口江里也)

フランスのルネサンス期に活躍した作家、フランソワ・ラブレー(François Rabelais)の代表作『ガルガンチュア物語』をもとに、読みやすく改変したのが、本書『異説ガルガンチュア物語』です。

『ガルガンチュア物語』は、『ガルガンチュアとパンタグリュエル』というシリーズの一つで、主に巨人の王、パンタグリュエルが活躍する、ユーモラスで奇想天外なストーリー。
彼の父親に当たるのが、ガルガンチュアです。

ラブレーのこの原作は、いくつか翻訳が出ていますが、何しろ16世紀に書かれたものですから、現代では理解できない部分もあり、注釈がたくさんついていて、ちょっと読みにくいです。

しかもあまり上品とは言えないモチーフもちりばめられているし、話が脱線したり、長い単語のリストのようなものや、だらだらとした詩が挿入されていたりします。

ルネサンス時代の文学とあって、興味はあるけれど、ちょっと手が出しにくい。
そんな物語を、作者の谷口江里也氏は、読みやすく大胆に書き直してくれました。

原作の流れは追いながらも、余計な部分は省き、分かりにくいエピソードは読みやすく改変。
時に独自の解釈を付け足しながら、ワクワクするおとぎ話に仕立てられています。

さらに、19世紀の版画家、ギュスターヴ・ドレが、当時出版された『ラブレー著作集』に寄せた版画が挿絵として使われており、永久保存版ともいえる美しい装丁となっています。

さて、ストーリーは架空の「楽園王国」が舞台。
この国は、巨人の王様と王妃様によって平和に治められており、物資も豊か。
国民はみんな幸せでした。

そこに、王子、ガルガンチュアが誕生します。
王子も何しろ巨人ですから、周りの家臣や侍女たちはお世話が大変。
でも、王子は誰からも愛され、すったもんだありながらも丈夫に育ち、ある年齢になるとパリへ留学に行きます。

故郷の楽園王国は、あまりも平和だったので、全てのものはみんなのもの。
所有権などは概念にもなく、お金すら必要としませんでした。

しかし、パリは違います。
ガルガンチュアの無邪気で、しかも巨人ゆえに普通の人にはスケールが大きすぎる振る舞いに、いざこざが起こるものの、王子は側近に助けられて様々なことを学び、内面的に成長していきます。

そんな時、故国では、大変なことが起こってしまいます。
隣国のピクロックル王国が、突然、楽園王国に攻め入ってきたのです。

戦争などしたことのない国王はパニック。
ガルガンチュアは呼び戻され、隠れてばかりいる父王に変わって、戦争で大活躍するのです。

パリに留学に行ったり、戦争が起こったり、というのは、原作通りです。
ただ、原作では、ラストで修道院の建築のエピソードに多めにページが割かれているのですが、こちらでは少し違ったところに着地しているようです。

そして、原作では読み取りにくい教訓と言えるものが、多々、こちらの『異説』では取り上げられています。
王(権力者)となる者の心構えや、戦争とはどういうものか、物事の本質とは何か、といったものが、太字で示されているのが特徴です。

例えば、
「すべてのものは もともとあったように見えるけれども 実はみんな誰かが創り出したものなんだ。」
「始まってしまえば何も分からなくなってしまうのが戦争。」
「人の醜さは不満の表れ 美しさは愛の現れなのだと思います。」

こうした教訓は、ガルガンチュアが作中で学んでいくものですが、私達も同時にハッとさせられるものだと思いました。

『異説ガルガンチュア物語』をまず読み、美しい挿絵を堪能してから、ラブレーの原作に当たるとより分かりやすく読めそうですね。

★『異説ガルガンチュア物語
 フランソワ・ラブレー 原作 / 谷口江里也 作 / ギュスターヴ・ドレ 絵
 未知谷
 ISBN:9784896425659

 

書籍レビュー文学
スポンサーリンク
スポンサーリンク
Kazuéをフォローする
フランス情報収集局

コメント

タイトルとURLをコピーしました