映画レビュー『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』(Une saison (très) particulière)

渋谷Bunkamuraで上映中のドキュメンタリー映画です。

パリのオペラ座は言わずもがな、高いクオリティの演目を上演する芸術の殿堂です。
しかし、2019年から世界を襲ったパンデミックで、休演を余儀なくされました。

オペラ座に所属するバレエダンサーたちにとって、3か月間の休暇は、厳しいものがありました。
スポーツ選手や音楽家がそうであるように、1日でも練習を休むと支障が出てしまうのです。
しかも、日本よりも厳しいロックダウンが課されたフランス。
家から外に出る事さえもままならない日々が続きました。
つまり、休演というだけではなく、自宅待機をしていなくてはいけないため、十分に練習もできなかったのです。

これは、過酷な試練と言えました。

映画は、3か月の自宅待機を経て、稽古を再開するダンサーたちの練習風景から始まります。
2020年12月の公演を目指して、「ラ・バヤデール」の練習に励む彼ら。
休んでいた間、体が変わってしまっていることに嘆きつつも、踊れる喜びにあふれています。
特にルドルフ・ヌレエフの振り付けは高度な技術が要求されるそうで、稽古の厳しさや、ダンスの難しさを嘆きつつも、休んでしまった間の勘を取り戻そうと奮闘します。

練習再開のはじめ、特にジャンプは足を怪我しないように、と指導者も気を遣います。
毎日6時間以上してきた練習がストップしていたのですから、いきなり前のようには跳んでは危険なのでしょう。

稽古着を着ていても、まるで羽が生えているかのように跳ぶ姿は本当に美しいです。
なぜ、あんなにも体重を感じさせない踊りができるのか。

稽古場で拍手が起きると、私まで手をたたきそうになってしまいます。
彼らの稽古現場に見ているこっちも溶け込んでしまったかのよう。

3か月も体を動かせなかった一流のダンサーや、マスクをして群舞する若きバレリーナたちの練習風景を見られるというのは貴重ではないでしょうか。

そして、12月の公演日の4日前。

再び、感染拡大により公演の中止が決まりました。
その代わり、ライブ配信を行うことになり、1日限りの無観客での公演に挑むことになりました。

ダンサーとしてのキャリアは短いそうです。
特に、今がピークのダンサーにとって、舞台に上がれない日が続くことは、キャリアが積めなくなるに等しい。

「休みでも給料は出る。健康でもある。だから、僕たちはとても幸運だ。それでもやはり辛い…」
彼らの意気込み、落胆、戸惑い、あせりといったリアルな声が映像に重なります。

ライブ配信の公演後、彼らに希望をもたらすある出来事が起こります。
通常とは違う公演形態でも、オペラ座のバレエは進化していることが証明されたようです。

観客を入れた公演が再開するのは、2021年の6月。
1年半もの間、休演を余儀なくされていました。
その間を追う、貴重なドキュメンタリー。

オペラ座バレエのとても特別な舞台裏をコロナ禍の今だからこそ、目に焼き付けておきたい気がします。

★『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』
Bunkamura ル・シネマ
https://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/22_parisopera.html


フランス・トピックスフランス映画
スポンサーリンク
スポンサーリンク
Kazuéをフォローする
フランス情報収集局

コメント

タイトルとURLをコピーしました