映画レビュー『最初の人間』(Le Premier Homme)

アルベール・カミュの遺作が映画になったとして話題を集めた本作。

『異邦人』や『ペスト』で有名なフランスの作家、カミュの自伝的小説が『最初の人間』。
でも、1960年に作者が交通事故死したため、未完となっています。
亡くなった時に持っていた鞄の中から、この小説の原稿が見つかったのだそうです。

小説の構想は1950年代からあったということで、意欲作のはず。
死後半世紀経っても、惜しまれています。
それを、イタリア人監督のジャンニ・アメリオが見事に映像化してくれました。

主人公のジャック・コルムリは、カミュと同じく、仏領アルジェリア出身の作家。
父の故郷、フランスで成功している。
これはもう、カミュ自身を投影させていると言えます。

1957年、独立紛争の真っただ中、一人で暮らしている母親を尋ねに、故郷へ帰ってきたコルムリは、出身大学で講演を行います。
フランス人とアラブ人の共存を訴えるも、植民地推進派の妨害に会い、講演は大混乱に。
推進派と保守派、同じフランス人でも考えの違う人たちが激しく対立している、そして現地のアルジェリア人の中にも過激派と温厚派がいる、そんな時代。

実家に帰ったコルムリは、少年時代を思い出します。
第一次世界大戦で父を亡くしたため、生活は苦しく、祖母は厳しく、クラスメートのアラブ人からは喧嘩を吹っかけられ。
中学への進学を諦めて工場で働き始めたものの、小学校の恩師に勉学の才能を認められ、その後、著名な作家となる道が開かれていく。

家族のつながり、教育の大切さ、生きる意味、植民地問題、さまざまなテーマが絡み合い、コルムリ(=カミュ)のアイデンティティが映し出される。
非常によくできた映画だと思います。

最初は難しいか、分かりにくい映画ではないかと危惧していましたが、そんなことはありませんでした。
ヨーロッパの映画らしく静かで、起承転結がはっきりしていないのもかかわらず、全然飽きませんでした。
映像はきれいだし、それぞれのシーンが余韻を残しながら、エピソードが続いていくので、ずっと見ていたいような感覚を得ました。

過去と現在のエピソードが入り混じるのですが、それも全く混沌とならず、逆に引き込まれますね。

映画の後半、コルムリのいる街がテロの爆撃にやられます。
アルジェリアでテロです。
一か月前に見るのと、人質事件のあった今見るのとでは、やはりハッとするところが違ってくるのではないでしょうか。

一週間くらい遅れて日本に入ってくるフランスの雑誌や新聞では、アルジェリアの事件よりも、マリへの軍事介入についての方が大きく取り上げられているように思います。当然ながら、日本人犠牲者についてのニュースは少ないわけで、逆に日本には入ってこない情報も多々あり。
日本では、身近に感じないテロそのものよりも、同朋の死を悼む。当然のことの中に、映画の内容とも絡まって、アイデンティティについて考えたりしてしまいます。

映画の中でコルムリは、アラブ人の味方であることを、はっきりと訴えます。
ただし、母を傷つけない限りは。

フランス人の血を引きながら、アルジェリアで生まれ育った主人公は、どちらでもない「異邦人」としての葛藤を抱えていると、多くの映画批評で、カミュの著作が引き合いに出されています。
やはりそれがカミュの書きたかったことなのかもしれないですね。

そうそう、主人公コルムリを演じたジャック・ガンブラン、カッコいいです。
鼻は高いし、目力もあるし、スーツも似合っています。
そして、少年時代を演じた子役も、とっても可愛く、将来ハンサムになりそう。

アルジェリアの美しい風景と、美しい男優たち。個人的な意見ですが、この辺も見ていて飽きなかった要素だと思います。

あと、フランス語も、あまり早口なところがないので、聞き取り練習にも良かったです。


『最初の人間』
2011年製作/105分/フランス・イタリア・アルジェリア合作
原題:Le premier homme
監督:ジャン・アメリオ
http://www.zaziefilms.com/ningen/

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