映画レビュー『危険なプロット』(Dans la Maison)

『8人の女たち』で有名な、フランソワ・オゾン監督の話題の作品を見てきました。

今年のフランス映画祭のオープニング作品として公開されたものです。
仏題は「Dans la Maison」、家の中で。
他人の家庭の中で起こることを、外部から観察するというのがテーマの一つです。

高校の国語教師、ジェルマン(ファブリス・ルキーニ)は、生徒たちの作文を読みながら、その稚拙さに嘆いていた。
ただ一人、クロード(エルンスト・ウンハウアー)という生徒の作文に目を止める。
文章が巧いのみならず、その内容が衝撃的だったのだ。
クラスメイトのラファの家を訪れた時のことが題材ではあるが、まるで他人の家を覗き見しているような書き方。
しかも、中産階級であるラファの一家をずいぶんと皮肉っている。

ジェルマンは、内容に問題はあるものの、クロードの文才を認め、文章の指導を買って出る。
小説家志望だった自分の夢を、生徒のクロードに託そうとしているかのようだ。
また、ラファの家を覗き見るクロードの作文の続きも気になり、クロードがラファの家に通い続けられるよう、教師としてやってはならないことにも手を出してしまう。

やがてクロードはだんだんラファの家に入り込み、ラファの父親に気に入られ、ラファ自身にも友情を超えた感情を抱かれ、そしてラファの母親・エステル(エマニュエル・セニエ)をも陥落してしまう。

母親と親友との関係をラファが知ってしまい、一家は崩壊へと導かれるかに見えたが・・・。

これらのクロードの行動を、そしてラファの家の内情を、ジェルマンは妻のジャンヌ(クリスティン・スコット・トーマス)と一緒に作文を通して見ています。
作文に書かれていることの全てが実際に起こったこととは限らず、ジェルマンもだんだんと迷路にはまり込んでいき、ジェルマン自身の生活も徐々に破たんしていくのです。

クロードの考えていることはよく分かりません。
少なくとも小説家は目指していないようです。
なぜあんな作文を書いたのか。
エステルのことは本当に好きだったのか、単に中産階級の女に興味があっただけなのか。
また、ジェルマンやジャンヌへの気持ちは?
ジェルマンの家庭に対する干渉は、計算の上でのことなのか。

ただ、クロードは貧しい地区の出で、母親はおらず、父親も無職。
中産階級のラファの家庭は、彼からしたら憧れに近いものであることは想像できます。
でも、この高校が制服を導入しているせいで、クロードもラファも一見、差は感じられません。
実際には制服のある高校は、フランスにはほとんどないらしいのですが、監督はイギリスのパブリックスクール風の制服で生徒たちの背景を隠してしまったのです。

このクロード、とにかく美少年。
しかも怪しい美しさがあり、ラファ一家にジェルマン、ジャンヌ、あらゆる男女を魅了してしまうのも頷けます。
いわゆる魔性です。

クロード役のエルンスト・ウンハウアーは、この映画で注目を集めました。
撮影当時、20歳を超えていたようなのですが、制服のせいか高校生役に全く違和感がありません。
もう、この映画の魅力は彼と言っても良いでしょう。
そして、彼をさらに引き立てる制服を着せた監督、あっぱれです。

この作品の中には、様々な伏線や、ほかの映画へのオマージュなども盛り込まれているようなのですが、一度見ただけでは把握しきれません。
物語も、前評判よりはミステリアスでもなかったけれど、見ている人にゆだねられている部分も多く、すっきりと明快ではありません。
でも、ウンハウアーの妖艶な演技を見るだけでも価値がある作品です。

また、二人の名女優、クリスティン・スコット・トーマスと、エマニュエル・セニエの演技にも注目です。
退屈な主婦と、多忙な働く女性が対比され、二人の女優が違うシーンで同じポーズを取ったりしています。
ただ、どんな境遇でも、やはり女性はしかるべき時に強さを発揮するのです!

DVDになったら、もう一度じっくりと堪能したい作品でした。

『危険なプロット』
2012年製作/105分/R15+/フランス
原題:Dans la maison
監督:フランソワ・オゾン
http://www.dangerousplot.com/

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