映画レビュー『バティニョールおじさん』(Monsieur Batignole)

『バティニョールおじさん』は2002年に製作された映画です。

チョビ髭に丸い体形のどこか憎めないバティニョールおじさんは、パリで肉屋を経営しています。
おしゃべりな奥さんに、可愛い娘、そして娘の彼氏である未来の婿に囲まれて、にぎやかだけど楽しそう。
しかし、この映画は、コメディでありながら、戦争映画でもあります。

時代はナチ占領下。
ユダヤ人たちが次々と収容所に移送されつつある中、フランス人のバティニョールおじさんは、平和でした。
未来の婿の密告で、隣家のバーンスタイン一家がナチに捕まるまでは。バーンスタイン一家は、偽造パスポートを作り、スイスへと旅立つ直前でした。

おじさんは、彼らがユダヤ人なんて知りません。
ただ、店の食材の豚が盗まれたので、隣家のやんちゃな息子のいたずらに違いないと、文句を言いに乗り込みました。
ユダヤ人は豚を食べないんです。
自分がユダヤ人であることを明かせば疑いが晴れるのに、それを言えない隣のご主人。

一方、おじさんは彼らがそんな状態とは気づかず、態度がおかしいと、追及をゆるめません。
そのうちに、警察が到着。
収容車に乗せられる彼らの視線を浴びたおじさんは、「知らなかったんだ」と弁明するしかありませんでした。

その上、摘発されたバーンスタイン家の豪華なアパートを、家族の勧めで買い取ることになったおじさん。
主に動いているのは未来の婿ですが、バティニョール一家はドイツ軍と親しくなり、すっかりナチに加担する身となってしまいました。

おじさんは、第一次世界大戦の経験から、ドイツが嫌いだったのに。

おそらく、おじさんは平凡に生きていければそれでよかったのです。
ただ、状況がそれを許しませんでした。

手に入れたアパートでパーティをしているとき、バーンスタイン家の一番下の息子が戻ってきたのです。
彼にとって、そこは自分の家ですから。
必死で走って逃げてきたようで、服もボロボロ、3日間何も食べていないといいます。
家族とも離れ離れになってしまっていました。
幸い、その子の姿を見たのはおじさんだけ。
パーティにはドイツ人将校も来ていたので、人に見つかったらまた捕まってしまいます。
おじさんは罪悪感もあって、彼をこっそり屋根裏部屋に匿いました。

最初はすぐに追い出そうと思っていたのですが、「おじさんがパパを売ったんだ」「僕の家を返せ」と言われては…。
しかも、まだ小さい子供なんです。かなり生意気ですが。

そのうちに、彼の従姉妹2人も匿うことになってしまい、おじさんは子供3人をスイスに逃がす決意をします。

最初はバーンスタイン家の主人が準備していたのと同じく、逃し屋に頼むつもりでしたが、信用できないと、自分でスイスまでついていくことにしたのです。
危険を冒してお金を手に入れ、家族を裏切り。何の関係もない子供たちのために、命を懸けてスイスへと向かうおじさん。

スイスへの旅路の途中で、何が起こるのか。
おじさんたちは無事にスイスの地を踏むことができるのでしょうか。

戦渦の話ではありますが、どっぷり暗い話ではありません。
ユダヤ人の子供達を逃がすために、悪戦苦闘するおじさんの姿をかなりコミカルに描いています。
逃亡先で手助けをしてくれるマダムと、一夜のアバンチュールまで楽しんでしまうところが、フランス映画といいましょうか。

テンポも良くて見やすく、おじさんたちの逃亡劇に「捕まらないで!」とハラハラしたり、人のやさしさに感動したり。
子供の機転で危機を脱したときは、スカッとします。
子供も最初は生意気なのですが、だんだんとおじさんを見直すようになり、ハートフルな部分にほっこり。

独軍占領下のフランス。
ナチと仏当局の関係や、ユダヤ人たちの緊張感、そしてフランス人たちの立場などを知る戦争映画の入口として、ぴったりだと思います。

監督のジェラール・ジュニョ氏自身が、バティニョールおじさん役を演じています。
はまり役ですよ。

『バティニョールおじさん』
2002年製作/103分/フランス
原題:Monsieur Batignole
監督:ジェラール・ジュニョ
http://www.albatros-film.com/movie/batignole/index2.html

フランス映画映画レビュー
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